前回は日本の育休制度に関する歴史を基にお話しさせていただきましたが、今回は少し世界へ目線を広げてアメリカの産休・育休制度の実情についてご紹介し、世界における日本の育児支援制度についてお話ししたいと思います。

各国の育児制度

日本に比べてアメリカはジェンダーギャップが小さいことから、労働者の権利が尊重され、女性の雇用、特に産休・育休に関する制度も充実しているだろうと、多くの方が想像されるのではないでしょうか。
しかし、実態はそうではありません。
まず、大前提としてアメリカは国として出産・育児に関する有給の休暇制度が設けられていません。その代わりに存在するのが、1993年にクリントン大統領によって設立されたFMLA(The Family and Medical Leave/ 育児介護休業法)と呼ばれる制度です。
FMLAは育児(新生児または養子縁組)、養育、介護(配偶者/親/子供)、または重病のために休暇が必要な労働者に対し、12週間の無給の休暇を提供し継続的な雇用を保証するものです。

FMLAを取得するためには以下の条件と注意事項を満たしている必要があります。
・現在の就業先で12か月以上勤続している
・現在の就業先で過去12か月の間に1250時間(平均24時間/週)勤務している
・現在の雇用主が職場から75マイル(約120km)内で50人以上の従業員を雇用している
・兄弟、義両親、祖父母に対しての看病・介護は対象外
・全従業員の上位10%の給与を支給されていて、その従業員の休暇取得が会社に大きなインパクトを与えると判断された場合、復帰を拒否する権利が雇用主側にある

上から3項目までの就業期間や労働時間、労働場所に一定のラインを設けている点は理解できる内容ですが、看護・介護の対象が限定的な点は厳しいですね。また、最後の項目に至っては、雇用主に拒否権があることには非常に驚きました。会社に与えるインパクトが大きい場合は雇用主が雇用を判断するという成果主義のアメリカならではのルールですね。

そもそも厳しいルールの上で施行されているFMLAですが、厳しいうえに無給の休暇となるため、現在バイデン新政権の法案として、この連邦FMLAを無給から有給に変更する動きがあるようです。また、現行のFMLAは40%近くの労働者がこの権利を取得できていない調査結果もあることから、条件面の見直しを望む方も多いようです。

このようにアメリカでは、国としての産休・育休制度が充実していないため、実態としては州、企業がその制度を補完しています。在籍している州や企業によって受けられる支援や福利厚生が異なるため、労働者個々で受けられる育児支援も異なっているというのが現状のようです。

制度の内容について、国として育児制度を整備している日本と一概に比較することは難しいですが、実はアメリカとの比較に限らず、日本の育児制度は先進国でも充実した内容となっているようです。日本の育児制度について概要を簡単にまとめてみました。

■取得可能な休暇
・産前から育児までの期間をあわせて最長約2年3か月の休暇を取得可能

■経済的支援
・出産育児一時金 42万円
・出産手当金 産休時の手当て元々の給与の約2/3
・育児休業給付金
・保険料の免除等

日本の育児制度が充実しているとお伝えした背景には、2021年にユニセフから発表された『先進国の子育て支援の現状』があります。これは先進41か国の保育の参加率・質・料金の手頃さ・育児休業制度について分析し、最善の子育て支援策を提供している国について調査した報告書ですが、この中で日本の育児休業制度はなんと世界1位とランキングされています。確かに、先述したアメリカのFMLAと比べると取得可能な休暇期間や得られる給付など充実していますね。中でも、父親に認められている育休期間が調査国中で最長であることがランキングを押し上げた要因となっているようです。
しかし、最終的な総合評価では日本は21位。育児休業制度1位に対し、21位までランクダウンした背景は、就学前教育や保育への参加率で31位、保育の質で22位、保育費の手頃さで26位という結果が影響したようです。

この中で私が気になったポイントは“保育の質”です。報告書の筆者も言及しているようですが、保育従事者の社会的地位が“保育士の質”にも影響しているのではないかと感じています。保育園での事故を報じるニュースは後を絶ちません。私は、保育士も医療従事者と同様に、命を預かる責任の重い仕事だと常日頃思うのですが、それに比して、受け取る報酬はあまりに少ないと感じます。より質の高い保育を提供するために、命を守るための資格、研修制度などを充実させ報酬を上げていく施策も推進して欲しいものです。

また、この報告書では、日本の子育て支援について、父親の育児休業期間は調査国の中で最も長い反面、取得率が低いことにも言及されています。
確かに、職場の雰囲気が育休の取得を許さない、上司の理解が進まない、といった要因を新聞やニュースで見聞きします。しかし一方で、最近私の周りでは、男性が育休申請をしたエピソードや育児・家事に積極的に参加しているご家庭の話を耳にすることが増えてきました。私が出産した7年前と比べても、家庭内の育児状況は変化しているようです。移り変わる社会の声と共に、こういった制度の拡充は少しずつ男性の育児参加を後押していると感じます。
育児は大変ですが、得られる幸せや喜びはそれ以上です。男性の育児参加が当たり前の社会になり、多くのパパたちがその幸せや喜びをさらに実感できるようになるといいですね。

いかがでしたでしょうか。
多くの日本人女性が社会進出し活躍するために、切っても切れない育児の問題。現状、女性に多く負荷がかかっていることは否めませんが、基盤となる制度が少しずつ充実してきていて、社会の認識も変化しつつあると私は感じています。残る課題の解決に向けて前進していけば、「ジェンダーギャップの大きい国、日本」というイメージも近い将来、払拭される日がくるのではないかと思います。

【参考サイト】
Family and Medical Leave (FMLA) | U.S. Department of Labor (dol.gov)
Unequal access to FMLA leave persists | diversitydatakids.org
育児・介護休業法について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
ユニセフ | https://www.unicef.or.jp/news/2021/0125.html