働く女性のホンネ Vol.4
~歴史に見るWorking Motherの変遷~

働く女性のホンネ Vol.4<br>~歴史に見るWorking Motherの変遷~

少子高齢化社会政策に“待ったなし”のわが国、日本。
先日、厚生労働省より2021年の出生数が発表されました。
その数、
81万1604人。
1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計人数を示す合計特殊出生率は1.30となり前年の1.33より低下しました。
このままでは日本の人口は2048年に1億人を割り込みむと予想されています。

年々拍車がかかる少子化に対処しようと、今年4月からは不妊治療の保険適応が始まりました。私自身が、不妊治療を受けるにあたり、時間的、経済的負担に阻まれて苦しんだ経験があったため、法案が通った時は、これで不妊に悩む多くの女性が救われる!と声を上げて喜びました。加えて、出産後の育児サポートについても、昨年「育児・介護休業法」が大幅に改正され、夫婦で育休を取得しやすい環境作りが進んでいます。
こうった施策が実を結び、出生数が増加に転じる年がくることを期待したいですね。

ところで、この「育児・介護休業法」、1991年に成立したのですが、これまで何度も繰り返し改正・施行が行われていて、改正の度に少しずつ育休が取りやすい環境に変わっていきました。過去ブログにも書いたように、十数年前のMR女性は妊娠と同時に退職するケースが多く、産後に復帰するケースは稀でしたが、今では多くの女性が育休を取得し就業を継続しています。
それは、長い拘束時間が必要だった以前のMR活動から働き方が変わってきたこと、そして社会全体の変化として、こういった法の改正による女性の社会復帰に対する理解が進んだことも大きな要因ではないかと思います。

そこで今回は、働く女性の出産・育児に関わる法制化の歴史を追いながら、当時の働く女性の状況や社会情勢に目を向けてみたいと思います。

まず整理しておきたいのは、日本における出産・育児の休業制度は「産前産後休業」と「育児休業」に分かれているという点です。
「産前産後休業」の後に「育児休業」が始まる仕組みになっているのですが、「産前産後休業」は労働基準法、「育児休業」は育児・介護休業法により定められています。

産前産後休業は妊娠中の女性労働者を保護する目的で制定されているため、妊娠中の女性労働者のみが申出・取得の権利を有しますが、育児休業は名称の通り、子の養育を目的とするため、男女問わず育児に携わる労働者が対象となっています。

では、それぞれの法律の歴史を見ていきましょう。

育児休業は介護休業とともに近年、「育児・介護休業法」として法制化されてきていますが、産休の起源は戦前にまで遡ります。
現在、産休について謳われている「労働基準法」は、明治時代に制定された「工場法」を前身として制定されました。「工場法」は、明治から戦後の「労働基準法」が制定されるまで施工されていましたが、その「工場法」に“産前4週間と産後6週間の休暇”が謳われていました。

正直、この時代から産休が法律として明記されていたことは非常に驚きでしたが、よくよく関連文献を読んでいくと、その時代から多くの女性が工場で過酷な労働を強いられ、働いていたことに気付かされました。「工場法」が施行された時代は産業革命期。大量の綿糸や生糸を生産するために生んだ工場制度が飛躍的な発展を遂げた時代です。

そんな中、「工場法」で“産前4週間と産後6週間”と謳われていても、法的強制性をもつ規定ではなかったため、特に産前休暇については、実際に休暇を取得できた女性は少なかったようです。また、休養中は日給の6割が保証されていたようですが、平常通りの収入を得るために無理して仕事に就く女性、また、これは現代にも通じるところですが、工場内の他者への迷惑、気兼ねといった事情により遠慮してしまう女性が多くいたようです。

ちなみに、この時代から、今でいうところの“保育園”施設が工場に併設されていたところもあったようです。とはいえ、この時代は一人当たりの出産数も多かったでしょうから、何人もの子供を育て、産後6週間で工場勤務という体力勝負の過酷な職場に復帰していた女性たちを想うと、頭が下がる思いでいっぱいです。

その後、「工場法」の産休に関する内容は1947年成立の「労働基準法」に引き継がれ、1997年の改正で現行の産前6週間(多胎妊娠の場合にあっては14週間)、産後8週間となり、1998年には多胎妊娠における産前休業は14 週間に延長され、現行と同様の内容となりました。

一方、昨年大幅な改正のあった「育児・介護休業法」は、その前身である「育児休業法」が1991年に成立したことが起点となっています。
もともと、育児に関する記述は先述した「工場法」でも謳われていて、“1歳未満の幼児があるときは1日2回各30分以内の哺育時間を求めることができる”と記載されていました。この記述は、その後の「労働基準法」に引き継がれ、現在も育児時間として残っています。
ただ、それは“生後満一年に達しない生児を育てる女性”と、女性に限定した内容でした。

また、1972年施行の「勤労婦人福祉法」では、“事業主は、その雇用する勤労婦人について必要に応じ育児休業の実施、その他の育児に関する便宜の供与を行なうように努めなければならない”とされていましたが、これも女性を対象としており、また事業主の努力義務範囲に留まったものでした。

こうした状況の中、1989年の特殊合計出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数)が1.57まで低下した「1.57ショック」が起こります。
この 「1.57ショック」 が大きな契機となり、少子化対策として育児支援が必要という認識が政府内でも高まりました。
そして、女性の職場進出、核家族化の進行などによる家庭機能の変化、少子化に伴う労働力不足の懸念などを背景に1991年「育児休業法」が成立し、翌年より施工されました。そしてようやく、この法律から、これまで女性に限定されていた育児休業が、男性も等しく、子供が1歳になるまで育児休業を取得できることが定められました。
ちなみに、「1.57ショック」があった1989年の出生数は124.7万人。冒頭にご紹介した2021年の出生数81万1604人を見ると、「1.57ショック」以降も、約30年でさらに出生数の減少に拍車がかかっていることが分かりますね。

その後、1995年の改正では、それまでの「育児休業法」から、現在の「育児・介護休業法」となり、介護休業制度が法制化されました。
また同時に、これまでの労働者数30人以上という制限は撤廃され、すべての事業所が法律の適用対象となりました。

以降、「育児・介護休業法」は度重なる改正が行われ、その都度、育児休業期間の延長や、子の看護休暇の権利化・拡充、短時間勤務制度の変更・義務化等々、その時代の課題に対応した内容に変わってきました。

そして現在では、“労働者は、その養育する一歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業を取得することができる。(第5条1項)”となっており、母親の場合は、産後休業が終わった翌日~子どもが1歳になる誕生日の前日まで、父親の場合は子どもが生まれた日から1歳の誕生日の前日まで取得可能となっています。
また、保育園に入所できない場合などは、最長で子どもが2歳になる誕生日の前日まで延長することかが可能です(第5条3項)。
加えて、今年10月からは「産後パパ育休」が施工されますので、これからさらに男性の育児・家事への参加が進み、女性側の負担が軽減されていきそうですね。

今回は、出産・育児に関連する法律にフォーカスしながら歴史を辿ってみましたが、いかがでしたでしょうか。
法制化以前の働く女性の環境は、記録が乏しくご紹介ができませんでしたが、出産後も働く女性は、なにも近年にだけ存在するのではなく、古くから存在したはずです。ブログの執筆を通して、きっとその時代その時代での苦労があったのではないかと、先人の女性たちに思いを馳せ、それでも逞しくたくさんの子供を産み育てた先人の女性達には心から感服し、同じ女性として彼女たちをとても誇りに思いました。そして、その女性たちの努力と苦労が今の私たちの就業環境を作ってくれたという事実にも気付かされ、感謝の念を抱かずにはいられませんでした。

今の子どもたちが社会に出たときに、男女が分け隔てなく活躍できる世界を子供たちに渡すことができるかどうかは、今、働く女性として日々奮闘している私たちに委ねられているのかもしれませんね。

さて次回は、日本を飛び出し、海外の産休育休事情を探ってみたいと思います。
昨年、とある事件により、日本はジェンダーギャップ指数が先進国で最低レベルと、不本意にも世界に周知されてしまいましたが、はたして産休・育休の制度は海外と比べどうなのでしょうか。ご期待ください!

【参考サイト・文献】
・ 厚生労働省. 第1部 人口減少社会を考える~希望の実現と安心して暮らせる社会を目指して~. 平成27年版厚生労働白書 -人口減少社会を考える-. https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/15/dl/1-00.pdf. (参照 2022-06-02)
・ e-GOV法令検索サイト. 2022-06-01. e-Govポータル.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 | e-Gov法令検索. 労働基準法 | e-Gov法令検索(参照 2022-06-02)
・ 特集 工場法施行から100年 今だから学びたい労働基準法の成り立ちとその意義. 広報誌「厚生労働」. 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/2016/08_01.html. (参照 2022-06-02)
・ 官報. 1926年06月07日. 国立国会図書館デジタルコレクション. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2956286/1. (参照 2022-06-02)
【参考図書・文献】
・ 金 慶玉. 「戦時期における女性の工場労働と保育 女工と銃後女子勤労要員を中心に」. 『年報 地域文化研究所』. 2018-03-31,第21号(2017年), 65-90,https://irdb.nii.ac.jp/00926/0004075894
・ 独立行政法人 労働政策研究・研修機構. 労働政策レポート Vol. 9 女性労働政策の展開―「正義」「活用」「福祉」の視点から―. 株式会社相模プリント,2011-10-15,252,https://www.jil.go.jp/institute/rodo/2011/documents/009.pdf
・ 深堀遼太郎. 「育児・介護休業法の改正効果―短時間勤務制度義務化と既婚女性の 離職・仕事満足度」. 樋口美雄・赤林英夫・大野由香子・慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター編『パネルデータによる政策評価分析4 働き方と幸福感のダイナミズム―家族とライフサイクルの影響』. 2013-07-31,慶應義塾大学出版会,113-138,https://www.pdrc.keio.ac.jp/uploads/DP2012-012.pdf

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