今、医薬の分野で注目を集めている職種「MSL」をご存知ですか?
MSLとは、「メディカルサイエンスリエゾン」の略。医師など医療分野の専門家と中立的な立場で、医学的・科学的なエビデンスや専門知識をもとに、医療活動を支援していく仕事です。専門家と良好な関係性を築き、新しい治療法や医薬品の適正使用に関する議論、論文投稿や研究支援など多岐にわたって携わっていきます。
患者様にとっての最善の治療の実現に向けて、エビデンスやデータに基づいた議論を医師などの専門家と重ね、メディカルインサイトを収集することが主な役割となります。
欧米では50年以上前から存在している職種ですが、日本で認知されるようになったのは2000年代に入ってからです。近年、その重要性の高まりとともに採用ニーズが拡大しており、認知度も着実に高まっています。
では現在、MSLとして働かれている方は、どのような経緯でこの仕事と出会い、活躍しているのでしょうか。今回、研究者から転職したWさん(30代女性)に、これまでの経歴やMSLとして働くまでの経緯、仕事のやりがいなどを語っていただきました。
目次
- 進路決定:母の死をきっかけに、医学・生物学に興味がわく
- 大学生~大学院生時代:国内・海外で生物学を学ぶ
- 大学院卒業後:バイト先で新たな興味を見つけ、再び大学院へ
- ポスドク時代:結果が重視の環境で、研究漬けの毎日
- MSLとの出会い:好きなことや学びを活かせる仕事
- 転職の決め手:企業勤務未経験の私に寄り添ってくれた
- MSLの仕事:製薬会社や患者様のためにできることを
- 日常の変化:プライベートの時間を充実させる大切さ
進路決定:母の死をきっかけに、医学・生物学に興味がわく
私にとって人生の中でも大きな出来事の一つが、母の死でした。母は、私が10歳の時に子宮頸がんを患い13歳の時に亡くなったのですが、その出来事がその後の進学、仕事選び、人生の選択に大きな影響を与えているのは間違いありません。
高校生の頃から「将来は医者になる」と決意し勉強に励んでいましたが、大学受験は失敗に終わってしまいました。浪人中に改めて自分の将来を見つめ直してみた時、医者よりも生物学への興味がわいてきたことから、新たな目標に向けて再出発したのです。
大学生~大学院生時代:国内・海外で生物学を学ぶ
1年の浪人を経て生物学を学べる大学に進学し、遺伝子や細胞を使って実験する分子生物学関連のアルバイトも始めました。朝から夕方まで毎日授業に出て、その後は夜中まで実験のアルバイト…と、キャンパスライフを満喫する間もなく、実験漬けの日々を過ごしていました。
同時に、英語の勉強にも力を入れていました。実は、医学部受験を失敗した理由が英語だったので苦手意識があったのと、大学で海外留学制度があり応募してみたいと思ったのです。その甲斐もあって、3年生の8月には海外留学メンバーに選ばれ、アメリカのカリフォルニアで10ヶ月間過ごしました。留学先の大学でも生物学を学んで単位を取得することができ、自分の経験値が高まったと共に学びへの興味がさらに広がった貴重な機会でした。
海外留学後は大学の研究室に所属し、抗がん作用のある薬物がどのようにがん細胞に効いていくか、といった薬物の作用機序に関する研究をしていました。この研究室を選んだのは、母が患ったがんについて知りたいという気持ちがあったからです。結果的に大学だけでは物足りず、大学院でも同じ研究室に所属して2年間研究を続けました。
大学院卒業後:バイト先で新たな興味を見つけて、再び大学院へ
卒業後は、よりがんについて知識を深めたいという想いから、ある大学で、マウスに化合物を投与しがん細胞がどれくらい縮小するかという研究に約2年間携わりました。初めて化学構造を意識した実験を経験しましたが、「構造が少し異なるだけでこんなに活性が異なるのか」と驚きの連続だったのを覚えています。その驚きは徐々に「自分の力で薬理活性を持つ化合物を作ってみたい」という想いに変わっていき、活性化合物の探索研究を突き詰めるため再び大学院進学を目指すことを決意しました。
自分で化合物を合成し細胞投与まで行える大学院の研究室を探し、狭き門でしたが合格することができて3年間研究に打ち込みました。論文が複数ジャーナルに掲載され、一つの成果を感じることができましたし、薬の知識も深まり学びの多い3年でした。
ポスドク時代:結果が重視の世界で研究漬けの毎日
薬の知識を持った上で、改めてがんについて深く研究していくため、その後はがん医療に特化した病院に併設された研究センターで、ポスドクとして働きました。がんの転移に関する研究を4年半経験したのですが、自分の持つ知識や経験をすべて注ぎ込み立ち向かったほど大変な研究でした。ポスドクは結果が求められる世界ですから、毎日朝から夜まで寝る間も惜しんで研究をする生活はまさに自分との闘いでもありました。
病院併設という恵まれた環境の中でのがん研究は多くの刺激と学びに溢れていましたが、体力的・精神的にも辛く感じ始めたのが30代を迎えた頃です。この先の人生を考えた時、研究から視野を広げ、新しい世界に目を向けることも自分の人生のプラスになると考えました。ただ、明確にやりたいことは見えておらず、これまで培ってきた経験や研究の実績を活かせる仕事に就けたらいいなという漠然とした想いだけを抱いていたのです。
MSLとの出会い:好きなことや学びを活かせる仕事
研究センターでは医師と連携して研究を進めていたのですが、医師に対して研究の進捗報告をするものの、まったく話が伝わらないという状況がよくありました。同じ医療ではありますが、臨床と研究で分野が違いますし、伝わらないのは当然です。そこで私が取り組んでいたのが「どうすればわかってもらえるか」を考えて入念に事前準備を行うことでした。毎回、医師に理解してもらえることを目標に準備する過程は大変ではあるのですが、とても楽しくやりがいに感じていたことから、「もしかしたら私は、誰かに伝えること、教えることが好きなのかも」と思うようになりました。
「人に何かを伝える、教える仕事」「研究者としての経験を活かせる仕事」「がんの研究に役立つ仕事」この3つが私にとって大切な軸だと思い、様々な仕事を見ていた中で出会ったのが、MSLだったのです。
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転職の決め手:企業勤務未経験の私に寄り添ってくれた
私自身、MSLという仕事は転職活動をする中で初めて知りました。職種理解が乏しい上に、企業での勤務経験がないことが大きな不安材料だったのですが、その不安を解消してくれたのが現在の会社です。MSL未経験からでもチャレンジできる環境があったこと、選考の段階でとてもスピーディーな対応をしてもらえたこと、また私が感じていた不安に寄り添い一つひとつアドバイスしてもらったことなど、安心感が決め手となりました。
その印象の通り、入社後は社会人のマナーやMSLの職についてじっくり指導してもらい、その後は担当製剤の疾患や臨床に関する研修プログラムを受講できるため、MSLとしての基礎をしっかり身に付けた状態で配属してもらえました。
また、何か困ったことがあればすぐに上司に電話で相談できますし、月1回は面談の機会も作ってもらっています。今の状況の報告や医師ごとの対応の仕方、評価のことなど、面談では様々な話をしています。上司も過去にMSLとして働いていた経験があるので、経験者ならではのアドバイスはすぐに実践に活かすこともできますし、納得感を持って取り組むことができています。
手厚いサポート体制があるからこそ、未経験でも安心して働けているのだと思います。
MSLの仕事:製薬会社や患者様のためにできることを
私は現在、子宮体がん、子宮頸がん、卵巣がんなどの婦人科領域を担当しています。図らずも婦人科系のがん分野に携わらせてもらっていることは、自分の使命なのかなとも思っています。研究者として基礎研究から行ってきて、今は臨床に近いところまで来ているので、これまでのキャリアを上手に活かしていかなければと強く感じています。
MSLである私の役目は、医師とコミュニケーションを取り、医薬品に関するデータや情報を的確に伝えて支援することです。コミュニケーションやディスカッションを通して医師から信頼を得て評価をいただき、さらには患者様の治療の役に立つという点はやりがいです。
一方で、薬の効果や副作用、安全性などはすべて現状のデータに基づいてしか話すことができないので、その時の医師の想いや、困っている患者様に対してすぐに対応できない所にはもどかしさも感じているのも事実です。ただ、医師と中立的な立場で向き合っていくことにより、医療現場のリアルな声を直接伺えることはとても貴重だと思います。最近では医師との会話の中で過去の研究の話などを交えることで、「Wさんに相談したいことがあって」「今こういう研究をしているんだけど」と声をかけていただくことが増えました。
私の過去のキャリアとMSLという仕事が、少しずつ繋がっている実感もありますし、頼っていただける喜びも感じています。医療の発展のためにも、MSLという存在は必要不可欠であり、意義のある仕事だと思っています。
日常の変化:プライベートの時間を充実させる大切さ
仕事の話とは少しそれてしまいますが、MSLになって大きく変化したのがライフスタイルです。どうしても研究職は不規則な生活になってしまい体力的にもきつかったのですが、規則正しい生活を送れるようになりました。
また、趣味ができ、それに割ける時間があることも私にとってはとても大きな変化でした。時間があれば体を動かすようになりましたし、転職してからは乗馬も始め、充実した休日を過ごすことができています。
研究者の時には寝る時間をどう確保するかばかり考えていましたが、今は心のゆとりを持てるようになりましたし、仕事でも落ち着いたコミュニケーションを取れるようになっていると思います。良い仕事をするために、心身共に健康でいることの大切さも身に染みて感じています。
研究者を志すようになったきっかけや、その後のキャリア、MSLに転職した理由などを丁寧に語ってくださいました。
Wさんのように、「これまでの経験を活かせる仕事を見つけたい」「MSLの仕事を深くは理解できていないけれど興味はある」といった方がいらっしゃいましたら、キャリア相談も実施していますのでぜひお気軽にお問い合わせください。
あなたの経験をお伺いした上で、これからの未来を一緒に考えていきたいと思っています。
キャリア相談をしてみたい方はこちらからお気軽にお問い合わせください